絶対音感トレーニングの落とし穴:正しい教室の選び方

先日、他のピアノ教室に通われている5歳の女の子の体験レッスンに来られました。そこでも絶対音感トレーニングを受けているとのことで、早速こちらでテストをしてみたのですが、ところが驚いたことに、既に黒鍵の和音の最後の音までやっているにも関わらず、発見の和音も含めてほとんど音が聞き取れない状態でした。

 

通常、ここまで来た場合はほぼ100%の確率で正解できるため、これには私もびっくりし、お母さんにトレーニングを始めてどのくらい経っているのか聞いたところ、まだ1年とのこと。

 

「ん...?!いくら何でもちょっと早すぎはしないか?」と、うっかり口に出してしまうのを何とか抑えた。

 

トレーニングを始めた年齢が4歳なので、通常なら1年でここまで来ることは滅多にない。2歳から始めたお子さんの場合は1年で習得できる場合もあるが、それは非常に稀なケース。なので、どのように絶対音感トレーニングを今のお教室で進められているのか聞いたところ、新しい和音を始めた日付が書かれている紙を出してくださった。それを見ると、なんと短期の間に、その前の音がしっかり覚えられていないうちに新しい旗へどんどん進めていたということが分かり、かなりのショックを受けた。

 

このお教室も、当教室と同じ江口メソッドを使ってトレーニングをされているが、どうやら自己流にアレンジして行われているようだ。 そこで、この子はどこまで音が聞き取れているのかテストしてみたところ、なんとまだ赤黄青の3つの和音がなんとか識別できるレベル。

 

それで、お母さんに、この子は一からやり直す必要があると伝えたところ、お母さんは動揺が隠せず、驚かれていました。信じてやってきたトレーニングが間違いだったということが分かった時のショックはいかばかりのものだったのでしょうか。しかし、この子がまだ6歳未満であり、今すぐにでもやり直しをすれば可能性がまだ残っていることを伝えると少しホッとされたようでした。あとはピアノの体験レッスンをして、その日は終わりました。その方は、その後すぐに当教室へご入会され、音感トレーニングのやり直しを早速開始しました。

 

実は残念ながらこのような生徒さんは、この子が初めてではありません。今年の4月にお母さんから絶対音感トレーニングを受けていた3歳の女の子が体験レッスンに来ましたが、この子もすでに黒鍵の和音に行っていたにも関わらず、音の分化ができず、ずっと和音だけのトレーニングを続けていたそうです。

 

このお母さんは、ご自身で江口メソッドの本を読んでトレーニングをされていたそうですが、素人の方がトレーニングをされると、このような問題が起こる可能性が非常に高いです。本を読んでいると自分でもやれそうだと思われますが、ある程度の音楽の専門知識があり、また、経験がある人でないと失敗する可能性が高いため、素人が行うことはお勧めしません。

 

このお子さんの場合、ピアノのレッスンへ入るタイミングが分からず、結果、お子さんはドレミが何なのかも理解できずにトレーニングを続けていたわけですから、これではいつまでたっても絶対音感を身につけることはできません。

 

このお二人のような状態になると、これまでトレーニングに費やした時間やお金が無駄になるため、お教室を選ばれる時は慎重に選んでください。一番良いのは、そのお教室の先生に以下のことを質問するとよいでしょう。

 

・現在、何人の生徒さんが絶対音感トレーニングを受講しているのか

・過去に何人の生徒さんに絶対音感を身につけさせることができたのか

 

そして、トレーニングの途中でも、少しでも疑問が沸いたら遠慮なく先生に質問することです。そこでお茶を濁されたり、曖昧なお返事をされた場合は、一刻も早くそこを辞められて、別のちゃんとしたお教室でトレーニングを受けられることをお勧めします。

 

残念ながら、江口メソッドの書籍があるために、ピアノの先生でもよく研究せずに実施するところがあるようです。一見、この本を読むと自分でもやれそうだという感じてしまうのですが、実際は、書かれているほどそう簡単にやれるものではありません。私自身、何度もこの本を読み倒して研究し、現場で様々な試行錯誤を重ねてやっていますが、それを普段からやっていても、生徒さんの進み方がそれぞれ違うため、日々、様々な問題・課題が出てきます。江口メソッドの本には、全ての問題に対して答えが書かれているわけではありませんので、そこをどう対処していくのか、ピアノの先生の力量が問われます。

 

音感トレーニングはきちんとした先生の下で行われることを強くお勧めいたします。

2020年07月04日